電気も水道も何もない世界で、私が一番綺麗だと思ったのはどこまでも広がる満天の星空だ。

「あれが……北極星!」

ようやくそのレベルかと横で笑ってる千空は、たまにこうして私のゆるい天体観測に付き合ってくれる。なかなかのお人好しだ。

「千空は北極星ね」
「あ゛?」

大昔の人は、夜空に見える星を繋ぎ合わせて様々な物語を考えてたんだとか。
千空は北極星で、北極星はこぐま座の一部らしい。北極星に連なる星が大樹、杠、コハク、クロム、カセキ、スイカ……?
なぞっているうちに目が眩んできて、何がどの星だか分からなくなりそうだ。
私の独断と偏見で目立つ星一つ一つにみんなの名前を割り振っているのを、千空は特に口を出すことなく聞いている。いや、実は全然聞いてないかもしれない。

「あれ、赤い星と青い星はどっちが熱いんだっけ?」
「断然青。表面温度の話な、ざっくりだが赤はだいたい三千度で青白いのは一万度以上だ」
「青かぁ……」

星が光るのには水素が必要で、その水素が星のエネルギー量。多い程温度が高くなる……というのが前提で、じゃあどうして温度が高いと青白いのかということまで千空先生は早口で説明してくれた。
彼が好きなのは、こういう話。私がさっきからしてるのはただの妄想みたいなものだ。色が綺麗だからとか明るいからだとか、その程度で遊んでる私と、星が明るい理由や赤い理由も知りたがって調べまくって、そうやって物事を見てる千空。星にも色んな種類があるように、私と千空も全然違う人間ってことだ。

「さ、そろそろ寝よ」

知ってる顔はだいたい出し尽くしてしまって、お遊びの時間はもうおしまい。

「オイまだ残ってんぞ」

依然星空を見上げたまま、千空は私を引き止めた。

「テメーはどれなんだよ」
「私?ああ〜素で忘れてた」

人数を数えてて自分を入れ忘れるというのは、よくある話で。でも、誰かのことはそれこそお星さまみたいにキラキラに見えても自分のことはどうなんだろう。千空に倣って再び空を見上げても、あまりしっくり来なかった。

「私、は……。ここからじゃ見えない星」

肉眼で確認できるのは、地球との距離が近い星か相当明るい星。地球から見えない星というのは、つまりそういうこと。でもきっとそこかしこに当たり前にあるようなものだ。それで充分じゃないか。

「成る程な」

適当にはぐらかしたつもりなのに千空は何故だか笑ってる。星空みたいにキラキラ輝く二つの瞳に、私が映りこんでいた。

「科学者への挑戦状だろ?未知の天体見つけまくる技術を復活させろっつうな。たまには唆ること言うじゃねえかテメーも」
「えっ、そ、そうかな……!?」

別にそんなつもりで言ったわけじゃない。寧ろ千空をちょっと困らせてしまうような。それでも千空が楽しそうにしてるならなんでも良いか!と思えてしまうあたり私も単純だ。
人を置いてけぼりにしてブツブツと何やら長考を始めてしまった彼を放って先に寝るわけにもいかず、今度は私が千空に付き合う流れだ。
こんなことならどさくさに紛れて言ってやるんだった。


千空。私、エネルギーもそんなないしちっぽけな星かもしれないけど、誰かに見つけてもらえるなら千空が良いなぁ。



2021.4.10 心星


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